北上次郎のがんばれ熟年!:キャベツ炒めに捧ぐ(井上荒野)

北上 次郎 氏
北上次郎(きたかみ・じろう)氏

1946年東京生まれ(本名 目黒考二)明治大学文学部卒。
1976年椎名 誠氏と「本の雑誌」を創刊。「冒険小説論」(双葉文庫)で日本推理作家協会評論賞受賞。他に、「情痴小説の研究」(ちくま文庫)「笹塚日記 ご隠居篇」(本の雑誌社)「本の雑誌風雲録 新装改訂版」(同)等の著作と、「14歳の本棚ー青春小説傑作選」全3巻(新潮文庫)「昭和エンターテインメント叢書」全5巻(小学館文庫)の編著有り。

キャベツ炒めに捧ぐ(井上荒野)角川春樹事務所 1,470円(税込み)
角川春樹事務所 1,470円(税込み)
井上荒野『キャベツ炒めに捧ぐ』(角川春樹事務所)は、小さい惣菜屋で働く三人の女性を描く連作長編だ。

オーナーは江子、六十一歳。開店時からの従業員麻津子は六十歳。三か月ほど前に従業員となった郁子は、二人よりも少し上というから六十二〜六十三歳。三人ともに一人暮らしである。

江子は夫に不倫され、離婚したものの、まだ夫に未練があるのでときどき電話したりする。麻津子は一度も結婚したことがないが、ずっと一人の男を愛している。ところがこの男がのらりくらりとはっきりしない。だから振り回されている。郁子は半年前に夫が亡くなったばかり。いまはひたすら静かに暮らしたいと思うだけ。

オーナーと従業員の関係だが、この三人は仲がいい。新メニューを決めるときは徹底的に話し合うし、時々一緒に飲みに行くものの、お互いのプライベートには立ち入らない。

惣菜を作る料理のレシピつきなので読んでいると作りたくなってくるのが一つ。とても美味しそうなのである。それぞれの恋が回想として挿入されるので(中には現在進行形の恋もあったりするが)、恋愛小説としての愉しさもある。そしてこれがいちばんなのだが、男性読者が読むと、これは大変羨ましい。なぜなら六十歳すぎて、新しい友(としか言いようがない)が出来て、仕事も日々も楽しいのだ。これがもし男だったら、一人暮らしの三人が惣菜屋を開くなんてあり得ない。こんなに楽しく日々を過ごすなんてあり得ない。

男よりも女のほうが友達が多い、と私は常日頃考えているのだが、歳を取るとその差がどんどんひろがっていくような気がしてならない。友達の少ないやつはもっと少なくなり、多いやつとの差はますますひらいていくのではないか。だから、そういう男性読者としては、この惣菜屋の女性たちがとても羨ましい。