ためして!漢方

暑気あたり

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年4月より現職。早稲田大学、新潟大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、(社)和漢医薬学会理事。主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)

猛暑の中を外出すると頭痛や吐き気、だるさを感じて数カ月食欲が全くなくなります。 頑張ってのんだり食べたりすると嘔吐したり下痢をしてしまい余計にだるくなってしまいます。胃腸が暑気あたりで弱っている時におすすめの漢方薬を教えてください。
(43歳、女性)

暑気あたりといえば、一昔前までは夏の高温多湿による食欲低下やだるさに加え、のぼせ、頭痛、めまい、大量の発汗、睡眠不足、さらに食事の偏りや冷たい飲食による胃腸機能の低下などが中心でした。しかし、クーラーが普及した現在では、これらの症状に加え、室内外の大きな温度差によって自律神経が乱れ、冷え、倦怠感、動悸などの症状を訴える人も少なくありません。

漢方的に暑気あたりを考えてみましょう。夏は腠理(そうり・皮膚)が開いて体内の熱を発散させるため、暑邪(しょじゃ・夏の暑さ)が体内に進入しやすくなります。その結果、体内に熱がたまり、体がほてる、寝苦しい、微熱が出るなどの症状が現れます。続いて、冷たい飲食で胃腸機能が低下するため、食欲低下、胃もたれ、腹痛や下痢などを生じます。さらに、胃腸機能が低下すると飲食物から生命エネルギーとしての気を十分に作れなくなり、だるい、疲れやすいなどの症状を引き起こします。このように、暑気あたりでは食欲がなく、全身がだるいという訴えだけでなく、その他にもさまざまな症状が現れるのです。

暑気あたりによく用いる漢方薬は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。これは「おなかを補って元気を益す」という効能をもつ処方で、だるさが強くて食欲低下などの消化器症状を中心に訴える人にうってつけの処方です。これに対して清暑益気湯(せいしょえっきとう)という処方は生脈散(しょうみゃくさん)という処方を含むため、動悸や発汗過多などの循環器症状がある人、たとえば軽い熱中症で脱水傾向がある人に適応があります。さらに、だるさと食欲低下に加え、頭痛やめまいがあれば半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、体力を消耗して眠れなければ帰脾湯(きひとう)、だるさよりも食欲がないことが訴えの中心であれば六君子湯(りっくんしとう)などを用います。また、大量の発汗によって身体の水分バランスが崩れると、のどが渇いて水を飲んだ割に尿量が少なくなり、むくむ、吐き気がする、頭痛やめまいがする、下痢をするなどの症状が現れます。これらの症状には五苓散(ごれいさん)が有効です。

あなたの場合、だるさと食欲低下から補中益気湯を用いるのもよいかもしれませんが、嘔吐や下痢などの特徴的な症状を考えると、まずは五苓散を飲んでみることをお勧めします。

2017 vol.31