健康カルテ

健診の胸のレントゲンは
心臓の病気を見つけるのにも役に立つ!?

菱田 仁氏
宮田 俊男(みやたとしお)
医師、博士(医学)
医療法人社団DENみいクリニック理事長
早稲田大学理工学術院教授
国立循環器病研究センター理事長特命補佐

1999年早稲田大学理工学部卒業。2003年大阪大学医学部卒業(3年次編入)。専門は心臓血管外科、心不全、人工心臓、心臓移植。2009年厚生労働省入省。医学研究、医療政策、副作用対策に詳しい。京都大学客員教授、国立がん研究センター政策室長、神奈川県顧問を歴任。 2017年医療法人社団DEN みいクリニック(東京都、大阪府) 理事長。かかりつけ医、在宅医療に取り組むとともに、オンライン診療の先駆者であり、現在、ダウンロード数2万超えのセルフケアアプリ「健こんぱす」の考案者。厚生労働省参与。

皆さん、健診は毎年、受けていますか?健診を毎年受けることはとても大切ですが、ついつい忙しくて受けそびれる人も多いかなと思います。また健診結果は正常範囲でよかったと安堵するのは早くて、数年間の健診の結果としっかり見比べて比較することも重要です。例えば、赤血球やヘモグロビンの値も毎年比較してみると、正常範囲であっても徐々に減っていて、大腸を内視鏡でくわしく調べてみたところ、たまたま便潜血では見つからなかった早期の大腸がんが見つかったという事例もありますし、最近は高脂血症から脂肪肝になり、肝機能障害につながる場合もあり、肝機能の代表的数字であるAST、ALTの値の推移も大切です。「かかりつけ医」を持っている方は、健診や人間ドックの結果をかかりつけ医にも念のため確認してもらいましょう。

〈心拡大を早期発見〉

さて今回のテーマは健診の項目の代表的な一つである胸のレントゲンです。胸のレントゲンは一般の方からは肺がんが一番、気になると思います。しかし実際には胸のレントゲンでは約1~2センチ程度の早期の肺がんはなかなか見つからず、必ずしも効率的な検査とは言えません。喘息とかでもコロナの後遺症とかでもないのに妙な咳が続いたりして肺がんが気になる方は、CT検査を受けることも選択肢です。もともと胸のレントゲン検査は戦後、結核を早期発見するために広まりましたが、国でも胸のレントゲン検査の位置づけについて改めて再検討しているようです。一方、胸のレントゲンでは心臓の病気を早期に見つけられる場合がありますので、是非、今回のコラムで皆さんに覚えておいていただきたいと思います。安静時心電図も健診で行いますが、心電図が正常でも心疾患が隠れていることがあり、まったく油断なりません。心拡大とは胸部レントゲンで心臓と胸全体の比(CTRと言います)が50%以上を超えると心拡大と判定します(図)。

心拡大がある場合には心機能が知らず知らずのうちに低下しており、心不全が隠れている場合がありますので要注意です。足のむくみや息切れなどの症状が出る前に心不全を発見できれば、例えば心臓の弁に超音波検査で異常がないかどうかなど、心不全の原因を突き止め、内科的または外科的に治療を行い、心不全の進行を抑え、食生活や運動など生活習慣の見直しも行うことで、健康寿命を延ばすことにつながります。最近は弁の病気も手術ではなく、カテーテルで行う選択肢も普及してきており、心臓の病気を怖がって治療を遅らせることは得策ではありません。

〈最新の検査と治療法〉

狭心症は心臓の筋肉を栄養する冠動脈の狭窄により発生しますが、冠動脈の検査も腕の動脈などからカテーテルを大動脈入口付近まで通して、造影剤を流し、検査することがよく知られていますが、実はCTを撮影して、画像を3Dで構築して低侵襲(体の負担を少なく)で調べることができます。冠動脈の狭窄も場所によっては突然死を引き起こすことにつながる心筋梗塞のリスクを上昇させるので、よく念頭に入れておきたいところです。また胸のレントゲンでは大動脈瘤を見つけられる場合もあり、最近、大動脈瘤もカテーテルで治療できる場合があります。大動脈瘤も動脈硬化によりいつの間にか体の中で何の症状もなく、瘤ができている場合があります。前回のコラムでは新型コロナウイルス感染症のパンデミックだけでなく、心不全パンデミックも今、大きな問題となっていると書きました。日本におけるがんの5年生存率は国のがん対策が功を奏し、徐々に改善してきていますが、循環器疾患は今まさに大きな問題となっており、近年、国も法に基づく循環器病対策推進基本計画を立てています。今回、健診の胸のレントゲンについて正しい知識を身に着け、普段の食生活や運動習慣も改めて見直し、みんなで心不全パンデミックを乗り越えていきましょう。寒くなる時期は血圧も上がりがちで循環器疾患は特に要注意ですが、スキーやスノーボードを含むウィンタースポーツや秋の散策を楽しんだり、温泉などで仲間や家族と語らい、健康寿命を楽しく延伸していきましょう。