健康プラザ

ストレス解消と運動

菱田 仁氏
菱田 仁(ひしだ ひとし)
医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長
前 藤田保健衛生大学病院 院長

昭和40年、名古屋大学医学部卒業。同大学大学院修了、医学博士。名古屋大学第一内科副手、名古屋保健衛生大学(現・藤田保健衛生大学)内科講師、助教授を経て昭和63年教授、平成18年2月より病院長。平成21年4月より医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長。専門は臨床心臓病学、特に心不全、虚血性心疾患、画像診断。

日常生活において身体活動を増やしたり、また運動習慣を持つことは、メタボリックシンドローム、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、がんなどの生活習慣病の予防や、高齢に伴うロコモティブシンドローム、認知症などの生活機能低下の予防に役立つとされています。

このうち、メタボリックシンドロームを早めに見つけて保健指導を行い、生活習慣病に繋がるのを防ごうと、約10年前から全国的に始まったのが、健康保険組合による特定健康診査です。そこで異常値を指摘されたことをきっかけに、ウオーキングやジョギング、ジム通いを始めた人は多いと思います。このような身体活動は、メタボの予防だけでなく、気分転換やストレス解消にも役立つとされ、メンタルヘルス不調の予防にも有効であることが分かってきています。

《エンドルフィンが関係》

通常、リラックスするには安静を、と考えがちですが、実は、運動もまた心をリラックスさせるのです。それもヨガのような特別な運動に限りません。無理せず段階的に行えば大抵の運動で効果が期待できます。中でも、大きな筋肉をリズミカルに動かすウオーキングやジョギングは最も有効で、20分間歩くだけでも心が明るくなるようです。そして、このような有酸素運動を定期的に続けると、心の健康にも好影響を及ぼし、ストレスを発散でき、うつ病などのメンタルヘルス不調にもなりにくくなります。

それでは、何故、運動はそのような効果を発揮するのでしょうか。

生理的には、運動により、脳内神経伝達物質である“エンドルフィン”が産生されることが関与しているのではないかと言われています。ランニングしていると気分が良くなり高揚してきます。これを“ランナーズハイ”と言います。脳内麻薬の一種である“エンドルフィン”の作用によるものです。持久力を要するきついスポーツの練習に耐えられるのもそのお陰かもしれません。また、運動はストレスホルモンであるアドレナリンや副腎皮質ホルモンの働きを抑えます。

《運動の精神的効用》

一方、運動に熱中することで、その日のイライラを忘れることができます。それを繰り返すことで元気で楽観的になり、冷静にしっかり行動するようになるでしょう。そして、そういった運動を定期的に続けた結果、身体的変化が起き、減量に成功したり体力が増せば、達成感も加わって活力が出て、仕事も上手く行くようになるでしょう。睡眠不足も改善します。これらが相まって、ストレスは和らぎ、自分が自分の身体や人生を支配していると感じるようになります。うつ病などのメンタルヘルス不調も軽減するでしょう。

時には、休暇をとって日常から逃れ、遊び楽しむことも必要です。スポーツはそのための良い機会となります。日々の煩わしさがなく、創造的な思考が可能になります。

《ヨガの呼吸法》

有酸素運動以外にも、ゆっくり規則的に深呼吸を繰り返すだけでも、ストレス解消になります。ストレスが掛かると、呼吸は速く浅く不規則になりますので、その反対を意識的に行うことでストレスが和らぐのです。ストレスで筋肉も緊張して固くなりますので、筋肉を弛緩させる運動も良いでしょう。呼吸法・姿勢・瞑想を組み合わせたヨガでは、呼吸が遅いだけでなく、脈拍も遅く、血圧は下がり、血中のアドレナリンが減り、体温も下がるといいます。これはストレスで起きる生体反応の逆で、ストレスに抑制的に働くと考えられます。

以上のように、運動は身体にも心にも良い影響があり、健康な生活をもたらします。

《参考》Harvard Health Publications. Trusted advice for a healthy life
2017 vol.31