吉田伸子のがんばれ熟年!「応援選書」

「ペンション・ワケアッテ」八木沢 里志

吉田 伸子
吉田 伸子(よしだ のぶこ)

1961年青森市生まれ。法政大学文学部哲学科卒。卒業後、編集プロダクションを経て1987年本の雑誌社に入社。「本の雑誌」の編集者として務める。出産を機に本の雑誌社を退社。以後、書評やインタビューを中心にしたフリーランスライターとして、各紙誌で執筆。

「ペンション・ワケアッテ」 八木沢 里志 ポプラ社 1,980円(税込)
ポプラ社 1,980円(税込)

東京駅から新幹線で二時間弱。那須高原の山の麓に立つ「ペンション・ ワケアッテ」。本書は、アットホーム、お一人様歓迎、を売りにしているそのペンションにやって来る様々な人々を描いた物語だ。

何やら意味深な名前から、「あのペンションに行く人はみんな、ワケアリだしねぇ」とタクシー運転手が言うように、訪れる人々みな、なにかしら重たいものを抱えている。

三年間付き合い、結婚もその先の人生計画も立てていたというのに、一方的に、しかも手紙で、別れを告げられた傷心のOL・明美。コミュニケーションが下手なせいで、大学で居場所がなく、お昼ご飯を毎日トイレで食べている洋太。

嫁との折り合いが悪いので、ホームに入所したものの、すぐにカッとなるせいでホームの居心地も良くない。ある朝、朝食の件が引き金となり、書き置きだけを残してホームを飛び出して来た一枝。

もう何年も新作を書けず、スランプに陥っている作家・孝弘。長年、毒親に虐げられ続けてきたが、もう限界だと死に場所を求めてやって来たまひろ。

そんな彼らが、ペンションで一夜を過ごすことで、自らが抱えていた問題に改めて向き合う。実は、ペンションのオーナー夫妻、楓と小吉にも訳ありの過去があり、二人は駆け落ちをするようにして彼の地にやって来て、このペンションを営むことにしたのだ。

生きづらさを抱えていた小吉の人生は、楓と出会ったことで救われ、楓もまた、小吉と二人で生きていくことで救われた。そんな二人だからこそ、訳ありの客たちを丸ごと受け止め、彼らに寄り添える。その結果、客たちは、自然と自ら進むべき道を見出し、前へと、明日へと進んでいく気持ちを持てるようになる。

なんだかきな臭い世界になりつつある今だからこそ、こんな優しい物語が必要なのでは、と思う。お勧めです!