伝統工芸のひきだし - Japan Traditional Crafts

かば細工

日野 明子(ひの あきこ)氏
日野 明子(ひの あきこ)
クラフトバイヤー

1967年神奈川生まれ
共立女子大学家政学部生活美術学科在学中に教授であった秋岡芳夫氏の影響を受ける。松屋商事(株)(百貨店松屋子会社・1998年に解散)にて北欧テーブルウェアおよび国内クラフト/工芸品の営業を経て、1999年独立、スタジオ木瓜を設立。一人で問屋業を始める。ショップと作家・産地をつなぐ問屋業を中心に、テーブルウェアを主体とした生活に関わる日本の手仕事・地場産業の展示会や企画協力、アドバイスを行う。
写真:長田朋子

交通手段が人の足や馬に限定された時代でも、人は全国を移動し、技術も広がっていくのが常だが、この秋田・角館の〝樺細工〟は、この地域のみで続く稀有な工芸品だ。

日本の花見といえば桜。全国各地で見られるソメイヨシノ、この角館の武家屋敷に咲き誇る枝垂れ桜、大阪の造幣局の並木で有名な八重桜と、街中直近に見られるものが有名だが、車窓から見る山桜の淡い色付きこそ桜の美しさ、と感じる人も多いだろう。角館・樺細工はこの山桜の樹皮を利用している。樺ではないのに樺細工と呼ばれるのは、桜の皮を「かには」と呼ばれていたからとか。樹皮の利用はくるみや白樺など、籠を作ることが多いが、18世紀後半に作り出された、と言い伝えられているこの貼り合わせの技術で、当初は印籠や根付け、帯留といった、手でよく触り、人目に付くものを作っており、記録として、藩公からの注文の記録も残っている。その特異な質感を道具に施すことで付加価値を上げてきた。

この樹皮の美しさだが、大まかに分けても七種もあるという。風雨を生き抜く樹皮の原皮のざらざらした質感を生かした「霜降皮」。これを削って、光沢を出したものを「無地皮」。山桜は全体の1/3程度であれば、樹皮を採っても生き続け、その剥がした部分は7〜8年後には再生するが、その再生した独特の表情を持ったものが「二度皮」。老木から採取される「ヒビ皮」や「飴皮」。光線の具合で金や銀に見える「金皮」や「銀皮」。職人は貴重な皮を、その技術で、より美しく仕上げていく。

木を丸めて作る弁当箱や蒸籠などの「綴じ」もこの山桜の皮が使われる。以前、岐阜県木曽の曲物職人の仕事場を見学させていただいたとき、刃物で皮を薄くこそげ落としながら「こんなふうに薄くして、力を入れても切れない粘りのある素材は、桜の樹皮以外、なかなかない。そして見た目のアクセントにもなりますしね」と、その皮が唯一無二であることを語っていたことを思い出す。

一時期、引き出物需要などで乱造された時代のあまり良い印象がない方もいらっしゃるかもしれないが、今はごまかしの効かない時代だ。山桜の花言葉は「あなたに微笑む」だそう。手に取って見比べ、そして、使い込んで、より良い質感に育てていけば、より一層、微笑んでくれる。

■素筒

■素筒
(左)茶筒 霜降皮(大)直径8.2cm×高さ12cm ¥14,300
(右)茶筒 無地皮(平)直径8.2cm×高さ9.3cm ¥12,650
樺細工の代名詞とも言える茶筒をデザイナー山田佳一朗が内蓋に一工夫を加えた。内側のつまみをなくすことで、シンプルになり、茶箕としても使えるようになった。

■相板 菓子皿

■相板 菓子皿
無地皮 横14cm 縦9cm 高さ0.7cm ¥2,970
多くの品を担当している山田佳一朗デザイン。縁をカーブさせて面の数を減らしたことで、作業が減り、手に入れやすい値段にしつつ、美しいシルエットにしたのはデザインの力。

■たたみペンダントトップ

■たたみペンダントトップ
横2cm 縦2cm 高さ2cm ¥15,180
伝統工芸士 米沢研吾作。磨いた桜皮を何枚も貼り重ねたものを彫刻した「たたみもの」の技法による球体の断面には重ねた皮の美しい層が見える。

■葉枝おき

■葉枝おき
(上)かえで 縦5.2cm 横3.8cm 高さ1.4cm ¥1,320
(二番目)無地皮 縦5.2cm 横3.8cm 高さ1.4cm ¥1,430
(三番目)さくら 縦5.2cm 横3.8cm 高さ1.4cm ¥1,320
(下)くるみ 縦5.2cm 横3.8cm 高さ1.4cm ¥1,320
樺細工と、楓やくるみ、桜などの樹で作った箸置き。
樹のものも樺細工の技法を使って製作。葉脈を矢羽根貼りにより表現。

■二段小物入れ

■二段小物入れ
二度皮 縦9.2cm 横9.2cm 高さ7cm ¥14,850
箱に山桜の樹皮を、高温で熱した金ゴテで押さえながら、木地に貼っている。縁を独自な細工で、ずれ落ちないようにしている。使われている二度皮は、一度、剥がした樹皮が再生して初めてできる貴重な素材。

■重皮 長財布

■重皮 長財布
ぶけやしき 縦9.3cm 横19.3cm 高さ1.5cm ¥17,600
山桜の樹皮と牛本革を合わせた長財布。樺細工は抗菌作用もあるとのこと。日々、さわり、どんどん艶が出ていくことが楽しみになる。

■たたみ茶箕

■たたみ茶箕
(左)霜降皮 幅3.2cm 長さ8cm 高さ1.5cm ¥2,090
(右)無地皮 幅3.2cm 長さ8cm 高さ1.5cm ¥1,980
磨いた樺を貼り重ねて厚くしたものを様々な形に細工する技法を「たたみもの」という。「霜降皮」と「無地皮」の対照的な皮の表情を楽しめる。

お問い合わせ
株式会社藤木伝四郎商店
〒014-0315 秋田県仙北市角館町下新町45番地
TEL:0187-54-1151
FAX:0187-54-1154
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