伝統工芸のひきだし - Japan Traditional Crafts

蒲田切子

日野 明子(ひの あきこ)氏
日野 明子(ひの あきこ)
クラフトバイヤー

1967年神奈川生まれ。共立女子大学家政学部生活美術学科在学中に教授であった秋岡芳夫氏の影響を受ける。
松屋商事(株)(百貨店松屋子会社・1998年に解散)にて北欧テーブルウェアおよび国内クラフト/工芸品の営業を経て、1999年独立、スタジオ木瓜を設立。一人で問屋業を始める。ショップと作家・産地をつなぐ問屋業を中心に、テーブルウェアを主体とした生活に関わる日本の手仕事・地場産業の展示会や企画協力、アドバイスを行う。
写真:長田朋子

1920年、東京の蒲田に松竹蒲田キネマ撮影所が設立され、「流行は蒲田から」と言われた。先立つこと1913年。日本で初めてのタイプライターの製造販売を始めた黒澤商店が、東京の西の果て、田舎だった蒲田に工場を建てたことが蒲田を大きく変えた。黒澤の誘いで、1919年、陶磁器メーカーの大倉陶園がこの地に工場を建設。大倉陶園に縁のあった硝子工芸家・各務鑛三(かがみこうぞう)は、大倉の支援のもと、1934年に各務クリスタル製作所を設立。蒲田に一流の文化を作る工場が立ち並んだ。この頃の蒲田の活気を愛し、研究会を立ち上げた地元住民は、この文化を「蒲田モダン」と呼ぶ。

自社で一貫生産の各務クリスタルも、高度経済成長期は、切子の仕事を信頼のおける工場に一部、委託していた。その一箇所が同じ蒲田にある1960年設立の東亜硝子工芸だった。この東亜硝子工芸の長男の鍋谷孝さんが、工場の技術を生かしたオリジナル品を販売する、有限会社フォレストを設立したのは1992年。蒲田の研究会のメンバーでもある鍋谷さんは、2010年、自社のグラスを「蒲田切子」と呼ぶようになった。

江戸切子の職人の多くは墨田区や江東区など、東京の東側で工房を営む。西と東の場所の違いだけではなく、オリジナル企画する上で念頭に置いたのは、生活に寄り添うさりげない自然のモティーフのシリーズと、モダンで大胆な柄のシリーズが特徴だ。顔と言える「水鏡」シリーズは、アールデコに通じる大正デモクラシーのモダンな意匠を感じさせる。クリアなグラスにスモークに見えるカットの渋いコントラスト。透明なガラスに注いだ飲み物の色で、カットが浮き上がる様はまた一興だ。子供にも人気の「マイグラス」シリーズは伝統に捉われず、自由に技術を組み合わせ、絵を描くように曲線を生かした柄が楽しい。どれも切子の技術を生かしつつ、日々、暮らしに寄り添う軽やかなものだ。

江戸切子は町民が作り始め、薩摩切子は薩摩藩主により起業された。江戸切子が作り出されたのが1830年ごろ、薩摩切子が生まれたのは1850年ごろという。回転する刃物にガラスを当て、柄を彫り込むことは共通だが、好む意匠、刃物の使い方や力の入れ加減などで、表情は変わる。江戸切子の技術に、モダンなエッセンスを加えた蒲田切子が生まれてまだ12年だが、根底には大正モダンが宿っている。

■ラシャ鋏

■杜康の玻璃
伝統柄 星(北辰)
(左)ピンク(右)クリア
φ約6.6cm×高さ約7.8cm 容量約120cc 各¥4,400
杜康(とこう)とは、古代中国の酒造りの神様の名前。ローマ神話で言うバッカス。農学博士の戸塚昭先生のアドバイスのもと、香り、飲み口、酒が口に入る位置まで計算して作られた、究極の日本酒のための猪口。

■TOKYO RAXA

■ぶどうボウル 小
φ9.4cm×高さ5.5cm ¥1,650
オリジナル品の最初期のシリーズ。江戸切子にも多く描かれる葡萄柄だが、それぞれの工房で、葡萄の描き方が異なるのが興味深い。蔓を流れるように生かしている。デザートや、おかずにも合う。

■小刀

■東京ウォーターグラス
(左)水鏡・磨き 木箱入り ¥17,600
(右)水鏡 木箱入り ¥8,800
φ7.8cm×高さ9cm 容量約250cc
蒲田切子の代名詞。凹んだ部分への指の収まりが心地よい。最近は薬品で艶を出すことも多いが、蒲田切子では、カット部分を手間のかかる「手磨き」で、美しい鏡面に仕上げている。

■庖丁

■GUINOMI
(左)水鏡(中)渦紋(右)風波
φ約5.2cm×高さ6cm 容量約50cc 各¥12,100
ぐい飲みは、飲むだけでなく、コレクションして、並べて楽しむ方も多いだろう。柄違いで、日替わりで楽しむのも、また楽しい。いずれも独特な、蒲田モダンのエッセンスが詰まった意匠は、蒲田切子独自のもの。

■ペティナイフ
■ペティナイフ
■ペティナイフ

■マイグラス
(上左)羊(上右)くじら(下左)ペンギン
φ約7.5cm×高さ約7cm 容量約150cc 各¥4,400
切子を熟知した女性デザイナーによる意匠。宙吹きと言われる、型を使わずに吹いた、柔らかなゆらぎのあるグラスに、様々な動物が生き生きと描かれている。人のグラスと区別できる良さもある。

お問い合わせ 手仕事ショップフォレスト
〒146-0085 東京都大田区久が原3-34-13(店舗)
TEL:03-5748-7321
http://www.glassforest.co.jp/
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2022 vol.41