ためして!漢方

煎じ薬のすすめ

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部客員教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年より東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授。令和6年4月より東海大学医学部・聖マリアンナ医科大学客員教授。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、医学教育専門家。
主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)

私はもともと体が弱くてすぐに体調を崩すため、かかりつけの先生から漢方エキス剤を処方してもらってのんでいます。煎じ薬の方が効くと言うのでのんでみたいのですが、値段が高い、毎日煎じなければいけない、匂いで家族に迷惑をかけるなど、いろいろなことが心配で躊躇しています。それでも、やはり煎じ薬はのんでみる価値があるのでしょうか。
(56歳、女性)

漢方エキス剤は、煎じた漢方薬を濃縮、乾燥、粉末化したもので、日本では現在、147処方が保険薬価収載されています。これらは、準備が簡単、質のばらつきがない、長期保存が可能、持ち運びが簡単などのメリットがあります。半面、最初から組み合わせや分量が決められているため、処方の種類が限定される、個人に合わせたさじ加減が難しい、味や香りの効果が小さいなどのデメリットもあります。

一方、生薬の種類や量を定めた処方箋に従って調合したものを煮出して作るものを湯液(煎じ薬)と言います。煎じ薬は毎日煎じるので手間がかかり、長期保存や持ち運びが難しいなどのデメリットがありますが、処方の種類は限定されず、個人に合わせたさじ加減が可能で、味や香りの効果も期待できるなど、大きなメリットを持っています。コーヒーに例えれば、エキス剤はインスタントコーヒー、煎じ薬は豆を挽いて淹れたドリップコーヒーのようなものですから、煎じ薬はエキス剤に比べて効きめが強力だと言うことができます。

また、意外と知られていないようですが、主要な生薬は保険薬価収載されているため、それを組み合わせた煎じ薬はほとんどが健康保険を使って入手できます。しかし、その調剤には手間と時間がかかるため、現状では煎じ薬を保険調剤してくれる薬局は限られています。

煎じ薬のデメリットは、2022年の診療調剤報酬改定でオンライン服薬指導が認められるようになって大きく改善しました。オンライン服薬指導とは、処方箋を病院からファクスで直接薬局に送り、薬剤師がスマートフォンなどを使って患者さんに服薬指導をする保険診療システムです。これを利用すれば、近所に煎じ薬を保険調剤する薬局がなくても安心ですし、有料にはなりますが、薬は患者さんの手元に郵送されてきます。さらには、煎じを代行して1回分ずつパッキングしてくれる薬局もあります。もちろん、このようなサービスを行う病院や薬局は限られていますので、事前に主治医と相談してください。

煎じ薬をのんでみたい方、エキス剤では効果が不十分な方、難病やがんなどで少しでも治療効果を上げたい方などは、ぜひ煎じ薬の効果を試してみることをおすすめします。