ためして!漢方

膝・腰・肩の痛み

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年4月より現職。東北大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、医学教育専門家、和漢医薬学会理事。
主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)

寒い日が多くなってきました。冬になると膝や腰、肩が痛くなります。
普段は湿布を貼って対処していますが、貼ったところがかゆくなってしまい、湿布の貼付に限界があります。寒くなると出てくる痛みに良い漢方薬はありますか?
(65歳、男性)

冬になって気温が下がると血管の収縮などが起こるため、血流が悪くなり、筋肉が冷えてこわばり、関節に負担がかかるようになります。体に老廃物が溜まって筋肉が硬くなり、さらに血流が悪くなり、ますます筋肉が硬直します。寒さで生じる関節痛はこうした悪循環の繰り返しによって起きると考えられます。

これらの症状を改善するには、体を冷やさないことが最も大切です。カイロや温かい下着で防寒対策をする、温かい食事や飲み物をとる、湯船にゆっくりとつかる、ストレッチなどで関節を動かすなど、まずは日常生活でできることを実践してみましょう。

関節痛には漢方薬も効果があります。基本となる生薬は麻黄と桂皮で、麻黄には関節の炎症や腫れを取る作用、桂皮には体を温めて血の巡りをよくする作用があります。また、附子は温めて痛みを取り除く作用が強い生薬で、冷えると痛む関節痛や腰痛に使われます。さらに、関節の腫れには水分代謝を改善して痛みを取る蒼朮や防已などの生薬も有効です。実際には、さまざまな体の痛みに対し、症状に応じてこれらの生薬を組み合わせた漢方薬を使い分けます。

麻黄を含む処方として、麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は関節痛や神経痛、筋肉痛などに広く用いられ、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は関節に熱感やむくみがある人に有効です。ただし、胃腸が弱い人では胃腸障害を起こすことがあるので注意が必要です。桂皮を含む処方は、胃腸が弱い人にも適応があります。温めると改善する関節痛には、附子を含んだ桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)が用いられることが多く、さらに冷えて強ばった感じがあれば当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を併用します。附子を含む処方としては、八味地黄丸(はちみじおうがん)が有名で、夜間頻尿や腰痛などを訴える中高齢者に用います。もしも痛みやむくみが十分に改善しなければ牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)にします。その他、水太りで足がむくんだ女性の膝関節痛には防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)、血の巡りが悪い人の腰痛には疎経活血湯(そけいかっけつとう)が有効です。

あなたの場合、いろいろな関節が痛み、それが寒さで悪くなることから、体を温めることを第一に考えてください。その上で、桂枝加朮附湯エキスをお湯に溶き、温かくして飲んでみるとよいでしょう。