ためして!漢方

感染性胃腸炎

新井信氏
新井 信(あらい まこと)
東海大学医学部専門診療学系漢方医学・教授

医師、薬剤師、医学博士。昭和56年東北大学薬学部卒、昭和63年新潟大学医学部卒。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、平成17年東海大学医学部東洋医学講座助教授、平成29年4月より現職。東北大学ほか非常勤講師なども務める。総合内科専門医、漢方専門医・指導医、医学教育専門家、和漢医薬学会理事。
主な著書:『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)

梅雨から夏場は、食中毒が心配です。急な下痢や嘔吐などの症状があり感染性の胃腸炎が疑われるのに、夜中などですぐに受診できないことも多いと思います。そんな時、救急的にまず家で服用できる、常備しておくと安心な漢方薬があれば教えてください。
(56歳、男性)

感染性胃腸炎とは細菌やウイルスの病原体、あるいはその毒素が腸管に感染することで発症する病気です。高温多湿となる梅雨から夏には細菌性のもの、乾燥した冬にはウイルス性のものが多くみられます。

細菌性胃腸炎は激しい腹痛と下痢が主な症状で、血便、発熱、悪心・嘔吐を認めることもあります。主な感染源として、カンピロバクターは加熱不十分な鶏肉、サルモネラ菌は卵や肉製品、腸炎ビブリオ菌は魚介類で、皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌は調理する人の手から感染します。一方、ウイルス性胃腸炎はノロウイルスによる冬季下痢嘔吐症が有名で、感染経路はカキなどの二枚貝を不十分な加熱で食べる、汚染された手指で調理された物を食べる、乾燥して飛散した吐物や便を吸い込む、汚染物に触れた手指を介して口から入るなどが考えられます。症状は1~2日の潜伏期間を経て、嘔吐、下痢、腹痛を起こします。消毒にはアルコールは効果が少なく、85℃で1分間以上の加熱、あるいは次亜塩素酸ナトリウム液が有効です。

一旦感染してしまったら、家庭では十分に水分摂取して脱水を避け、下痢は無理に止めずに細菌やウイルスの排泄を促し、整腸剤で経過をみることが基本です。漢方治療も有用で、症状によって薬を使い分けます。冬季下痢嘔吐症は口渇と噴水状の嘔吐が特徴的で、お湯に溶いて冷ました五苓散(ごれいさん)を少量ずつ服用すると効果的です。五苓散を含む処方で、胃苓湯(いれいとう)は腹にガスが溜まる人、柴苓湯(さいれいとう)は発熱がある人や症状が長引く人に用います。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)はみぞおちが張って、腹が鳴り、下痢する人に適しています。下痢が激しく、みぞおちが痞え、便臭が強く、ときに発熱や嘔吐を伴う人で、後頚部が凝って胸苦しければ葛根黄連黄芩湯(かっこんおうれんおうごんとう)、腹痛があれば黄芩湯(おうごんとう)を用います。

感染性胃腸炎はこれらの原則に従い、軽症であれば水分摂取と漢方治療で経過をみてもよく、その場合、症状に応じて五苓散半夏瀉心湯を準備しておくとよいでしょう。ただし、特に小児や高齢者では脱水になりやすくて点滴が必要であったり、細菌性胃腸炎では抗生物質が有効であったりしますので、安易に自己判断せず、必ず病院を受診してください。

2022 vol.41