新型コロナウイルス感染症(COVID-19 本稿では新型コロナと略します)のパンデミックが始まってから2年余りが経ちました。新型コロナ流行の波は、次第に大きくなりながら、繰り返し押し寄せました。今は、第6波のピークを越えましたが、なかなか減らない下げ止まりの状態です。しかし、優れたワクチンができて接種が進み、治療薬も開発され、感染症対策はそれなりに進展しています。

新型コロナでは、咳やくしゃみなどで生じた飛沫や、物に付着した飛沫が、鼻や口からヒトの体に入り、のど、気管、気管支を通って、肺胞つまり肺の奥にまで到達します。そこでウイルスが増殖して肺炎を起こすとされてきました。ところが、2022年3月時点で流行している変異株のオミクロン株は、上気道、つまり鼻と喉のあたりに留まり、肺の奥深くには侵入しません。そのため、オミクロン株は、感染性は強いけれども肺炎を伴わず、軽症例が多くなり、風邪(上気道炎)との区別が難しくなっています。いずれにしても新型コロナは呼吸器の感染症であることに変わりなく、重症度も肺炎の有無や肺炎の程度を基準にして定められてきました。ところが新型コロナでは呼吸器以外の様々な臓器にも病変を合併することが分っています。その中で注目を集めたのが心筋炎です。
新型コロナに罹患した20歳前後の若年者の一部に、急性心筋炎を認めたという報告がありました。殆どは無症状か軽症ですむのですが、ウイルス性心筋炎は劇症化して致死的になることもあります。一般に若年者は新型コロナにかかっても予後が良いとされていたため、大きく取り上げられました。
さらに関心が高いのが、新型コロナワクチン2回接種後に、それに関連して心筋炎や心膜炎(心臓を包む膜の炎症)を認めたという報告です。男性を中心に若年者で見られ、殆どは軽症で完全に回復しています。発生頻度は極めて稀で、新型コロナ罹患によるものよりも遥かに低いようです。従って、新型コロナウイルスワクチン接種により感染・重症化予防を図るメリットの方が、ワクチン接種による急性心筋炎・心膜炎に対する懸念よりは圧倒的に大きいとしています。(日本循環器学会見解)
前記のように、心筋炎は罹っても軽症ですむことが多いのですが、それ以外の心血管系の合併症がしばしば認められ、高い死亡率に繋がります。すなわち、血栓によって血管が閉塞して起きる脳梗塞、心筋梗塞、肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症が報告されています。これらは新型コロナウイルス感染が呼吸器から全身に波及して、血管に炎症が起き、血液の凝固性が高まって起きたと考えられています。原因として、その臓器に新型コロナウイルスが到達して感染したためか、呼吸器への新型コロナウイルス感染に対する身体の過剰な免疫反応の結果なのかはまだはっきりしていません。
一方、もともと心血管疾患を持っている人が新型コロナに罹患すると重症化し易く、特に心不全の高齢者では死亡率が高いと言われています。
以上、新型コロナにおける心血管疾患について書きましたが、これらは2年余りにわたるこれまでの経験で得られた知見です。ウイルスは変異してゆきます。従来の株と性質が異なるオミクロン株や、今後現れる新しい変異株で同じことが言えるという保証はありません。
ウイルスが変異を繰り返して弱毒化し、新型コロナがインフルエンザや風邪のような病気に早くなってくれることを願うばかりです。《参考》
新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き:厚生労働省