健康プラザ

血圧はどこまで下げるか
- 高血圧の新ガイドライン -

菱田 仁氏
菱田 仁(ひしだ ひとし)
医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長
元 藤田保健衛生大学病院 院長

昭和40年、名古屋大学医学部卒業。同大学大学院修了、医学博士。名古屋大学第一内科副手、名古屋保健衛生大学(現・藤田医科大学病院)内科講師、助教授を経て昭和63年教授、平成18年2月より病院長。平成21年4月より医療法人誠厚会・名駅前診療所保健医療センター所長。専門は臨床心臓病学、特に心不全、虚血性心疾患、画像診断。

日本人の死因として、がんに次いで多いのが脳心血管病(脳卒中、心疾患)です。そして脳心血管病の最大の危険因子は高血圧とされています。

我が国の高血圧者は約4300万人と推定され、実に40歳から74歳までの2人に1人、75歳以上では4人中3人が高血圧ということになります。このうち血圧がコントロールされているのは1200万人に留まるといいます。そこで、高血圧をしっかり管理して脳心血管病を減らし、健康寿命を延ばそうと、様々な取り組みがなされています。

《130/80㎜Hg未満が目標》

これまでは血圧が140/90㎜Hg以上を高血圧と診断し、血圧を下げる方策がとられてきました。ところが、血圧は120/80㎜Hgを超えると脳心血管病のリスクとなり、それより血圧が高くなるほどリスクも高くなってゆくことがだんだん分かってきました。それを踏まえて、日本の高血圧治療ガイドライン2019では、血圧が140/90㎜Hg未満であっても正常とは言わず、正常血圧は120/80㎜Hg未満としています。そして、その中間を高値血圧および正常高値血圧と名付けました。国民が早い段階から高血圧を意識して、生活習慣是正や治療を始めるなどの対策を講ずるように仕向けたのです。

そうなると降圧治療の目標値も、これまでのように140/90㎜Hg未満で満足するのではなく、もっと下げるべきということになります。そこで、前記ガイドラインでは、多数の臨床研究の結果を綜合して、降圧の目標値を130/80㎜Hg未満と定めました。5年前のガイドラインでは140/90㎜Hg未満でしたので10㎜Hgも下げたのです。120/80㎜Hg未満としなかった理由は、根拠となるデータがまだ十分揃っていないから、ということです。„血圧はthe lower, the better"が基本理念というべき指針です。

《下げすぎに注意》

とはいっても、勿論、下限があります。一般に、高血圧患者の血圧を120/80㎜Hg未満にまで下げると、過降圧となって、たちくらみ、ふらつきなどの症状や虚血による障害が起きる可能性が出てきます。特に、後期高齢者や脳動脈硬化などのある人は、血流障害を起こしやすく、130/80㎜Hg未満でも過降圧となる人が出ることが考えられます。そのため、新しいガイドラインでは、これらの人の降圧目標は、140/90㎜Hg未満と緩くなっています。(ただし、過降圧の症状がなければもっと下げてもよい)

《血圧は変動する》

これまで述べてきた血圧とは、診察日に診察室で測った血圧値です。実は、血圧は測定時の状況により、刻々と変化します。一般に、診察室に比べ家庭では低くなり、朝と夜でも違います。また、体動後や精神的緊張時は高く、体位によって変わります。

血圧を下げるに当たっては、診察室以外の状況での血圧の変動も考慮し、下げ過ぎに注意しつつ、降圧目標値を目安としながら、なるべく血圧を低くする、ということになるかと思います。

〈参考〉
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン2019.日本高血圧学会発行

2020 vol.36